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タイトル心を映す物(5/6,裏通りの武器屋)
記事No12028
投稿日: 2018/05/06(Sun) 00:14:58
投稿者クロムウェル
参照先http://bbs.swordworldweb.net/pc-list/read.cgi?no=588
「御免」


裏通りの小さな武器屋。
そのくたびれたドアを、身をかがめるようにしてくぐる。

すでに夕暮れ迫る折、薄暗い店内にはしかしあらゆる武具が並ぶ。
剣、槍、戦斧、鎚矛、すべて人に武をもたらすための器たちだ。


「主殿、これを」


鉱山妖精の背丈に合わせた低いカウンターに、使い込んだ長槍を置く。
穂先は刃こぼれ、柄はひび割れ、我ながらひどい有様だ。
咎めるような主の視線に、黙して羞恥を示す。

騎士であった頃ならば伝来の鎧も受勲の剣も人一倍丁寧に扱っていたのだが、
独り身となってからはどうにも扱いが雑に……というか、
壊れてしまえと叩きつけるように扱うことが増えてしまった。

特に右手、”憎悪の呪い”を闇司祭から授けられてからは。
……チリチリと手の甲が疼く。


「修繕には如何ほど…いえ、新調は」


一旦は辞したものの、修繕依頼もこれで幾度目か。
軽量安価な木柄の素槍などではなく、もっと本式の武器を求めるべき頃なのかもしれない。

見積もりを待つ間、店内をうろつく。


..
...
....


(ポールアックス、ハルバート、ルーサーン…)


まず手にとったのはポールアームだ。
鉄柄のこれらはまさに戦うための道具、威力に優れ万能、耐久性も万全だ。
戦士としての私はこれらの武具の機能美に強く惹かれる。

だがはて、コレを持って私はどこの戦へ赴くのだろうか。
冒険者として持ち歩くには重いし、街中で不意に仇と出会ってもコレでは戦えないだろう。

しっくりと馴染む手応えに後ろ髪を引かれながらも、私は彼らを棚に戻した。






(バトルアックス、メイス、フレイル、ウォーハンマー…)


続いて見るのは戦斧を始めとする、威力に優れながらも一回り小ぶりな武具たちだ。
人間同士だけでなく、遺跡や辺境で怪異と戦う冒険者にもこれらを愛用する者は多い。
冒険者としての私は威力と携行性、そのバランスや良しとして彼らを選べとささやく。

だが冒険者として生きて、それで本当にいいのだろうか。
我が本懐は復讐、仇討ち。
王都の、それも恐らく大盗共のギルドに潜むという暗殺剣の使い手、
蠍の某を殺すためにこそ私はここにあるのだ。

奴の剣は速く、精密……魔獣の首を落とし、頭蓋を砕くに用足りる戦斧達では、
あの剣に対抗することは難しいだろう。

棚のマスコット的存在か、モーニングスターを愛でるように撫で、次へ向かう。





(やはり、剣…)


精鋭の二重傭兵たちが槍衾に切り込む両手剣。
冒険者はじめ流浪の剣士の象徴ともいえる片手半剣。
そして騎士のころから最も馴染み深い幅広の剣……私の心はどうしても無数の剣達の間にこそとらわれてしまう。


(隣国の曲刀か)


主自ら鍛えた武器ばかりが並ぶこの店では珍しく、工房都市エレミア風の曲刀も置かれていた。
熱い風が吹く彼の国では東国や西国風の板金鎧は主流ではなく、
もっぱら軽装を切り裂くための曲剣曲刀が好まれるのだという。

”獅子の尾”とあだ名される大曲剣、鞘から抜く音すら優美なソレを手に取る。


(…似ている)


我が妻子の殺されたあの日、あの時……ちょうど今のような夕闇迫る木立のなかで、
キラリと見えた刀身はこのような拵だったように思う。
いや、よく思い出せはしないのだが。


(おのれ、蠍)


茜色の空に、なお真紅く飛ぶ家族の血飛沫。
それを見た私は一瞬、呆気にとられ、次の瞬間には獣めいて咆哮を上げた。

朴念仁の私を助け、愛してくれた妻。
なかなか子宝に恵まれなかった我らの自慢の娘。

なぜ、なぜ先に私をその手にかけなかった蠍よ。
私はあんなものは見たくなかった。
女々しいと言われようと、私はあの時に死んでおきたかった。

病床の上で、無限に繰り返す”あの光景”。
そこから目をそらすために私は旅をし、こうして王都に流れ着いた。
復讐は未だ成らず……幸いにして。


..
...
....


ふと気がつけば外は宵。
すっかり暗くなった店内に、獣脂の明かりだけがポツンと灯っていた。
暗闇など気にしない主殿の、人間への気遣いなのだろう。

……だがもう少しだけ明るくしてほしい。
来るたびにそう訴えてはいるのだが。


「見積もりありがとうございます。
 ……うーん」


修繕見積もりのほどは、直すには高く、買い直すには届かず、微妙な金額が提示されていた。
値段交渉一切無用と質実さをアピールするこの店だが、
以前、騎士だったころからの経験で私は知っている……こう見えてドワーフは商売上手なのだ!


「すみません、もう少しだけ見ていっても…?」


買うか、買わざるか。
店じまいの支度を始める主を尻目に、私は女々しい行いの第二幕を開始する。


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-PLスキュラ-
久しぶりに無印日常を書いてみたり。
グレソとプレートを書いたくてお金を貯めてたんですが、
いざ買える額が貯まると迷ってしまったり……そんな心情を下敷きに書いてみました。
まようー

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